『ビジネスで一番、大切なこと』

作成者
ヤンミ・ムン(著) 北川知子(訳)
出版者
ダイヤモンド社
刊年
2010

  「企業の目的は顧客の創造である」は、P.F.ドラッカーの言葉で、今 でも名言として良く使われています。この企業の目的を実践するのがマーケ ティングとイノベーションですが、今回ご紹介する一冊は、現代のマーケテ ィングを分かり易くしたものです。
  著者のヤンミ・ムン教授は、ハーバード・ビジネス・スクールで10年以 上に渡りマーケティングを教えています。彼女は、これまで経営学を論じた 授業を否定します。そして、二人の子どもを持つ母が買い物する目線から、 マーケティングを読み解きます。この消費者目線こそ、彼女の授業が同スク ールで最も人間味溢れると評価され、本書が重版を続けるている理由といえ るでしょう。
  内容は、「私たちが陥っている『競争』の正体」、「私たちの目を奪うア イデア・ブランド」、「私たちは、人間らしさに立ち返る」の三部で構成さ れています。近年のビジネス社会では、差別化が声高に叫ばれています。し かし過度な差別化は、消費者の心を履き違え、うんざりさせ、遂に消費者離 れを引き起こすと述べています。この主張は、本書と同じく世界中で読まれ た同スクールのクリステンセン教授『イノベーションのジレンマ』にも見え、 そこに現代経営学の潮流が窺えます。
  本書は、差別化は手段ではなく考え方である、そして何よりも取り組みだ と結び、「ええ、私たちはわかっていますとも」からの脱却が、新たな消費 者を生むと提起します。私たちの「わかっている」は、実は「わかったつも りでいる」に過ぎないことを、親身に気づかせてくれる一冊です。