『野に遺賢をさがして ニッポンとことこ歩き旅』

作成者
森まゆみ 著
出版者
株式会社亜紀書房
刊年
2025.6

 旅という言葉で思い描くのはどのようなものでしょう。観光地・買い物・リゾート、人によって思い描く旅のイメージは様々です。
 本書は地域雑誌『谷中・根津・千駄木』を創刊し、長年聞き書きを記録に代えてきた著者による旅のエッセイです。著者が求める旅は「暮らすように泊まる旅」と表され、訪ねる先々で土地に暮らす人々と出会い、地元の歴史を見聞し、美味しい料理とお酒に舌鼓を打つ豊かな時間が描かれます。そこで出会う人々は、あえて地方にとどまり、地元を支えるために知識や財産や時間を惜しげもなく捧げ、地域のために奮闘する方ばかりです。著者は彼らを「遺賢」と呼び、その言葉を生き生きと伝えます。
 巻頭には高村光太郎の「内にコスモスを持つ者は世界の何処の辺遠に居ても常に一地方の存在から脱する」という言葉を引用しています。本書は都会ではない地方にいる「誰かのために生きる人」をさがし、やわらかな光をあてるエッセイだといえるでしょう。この情報過多の時代に忘れかけている大事なものを問いかける一冊ではないでしょうか。