『をとめよ素晴らしき人生を得よ:女人短歌のレジスタンス』

作成者
瀬戸夏子 著
出版者
柏書房
刊年
2025.8

 もともとは、出版元である柏書房のweb媒体 で連載されていた、アガサ・クリスティの作品を思い起こさせる「そしてあなたたちはいなくなった」というタイトルの一連の記事を書籍化したものがこの本です。
 同じ著者の短歌批評集に『はつなつみずうみ分光器』というタイトルがある記憶と、本の装丁が相まってそうさせるのか、鋭いけれど爽やかなレモン色の陽光がさしこみ、あるものを別の角度から照らす(そして思いも寄らないかたちの影が産み出される)ような感覚が読後に沸き上がります。
 基本的には1949年に結成された女性だけの結社「女人短歌会」と歌誌『女人短歌』に参加した歌人たち、そしてその周辺の女性たちのシスターフッドをとりあげていますが、この本の射程はそれだけにとどまりません。アイルランドの独立運動家、フィンランドの日本文学研究者、そして「ミステリの女王」クリスティーも登場し、意外な繋がりや共鳴、共通点が読み解かれていきます。
 奈良にも深いゆかりのある北見志保子や、寺山修司と共に「現代短歌の出発点」ともいわれる中城ふみ子などについても、これまでとは異なる方向性から光が当てられ、あらたな姿でわたしたちの前に立ち現れます。その発足自体がレジスタンス的であった「女人短歌会」、その同人や周囲の女性達の抵抗や反骨、そして人生が、現代のわれわれと地続きの生身のものとして迫ってきます。本書で描かれる「女性だからこそ」の苦悩や葛藤、そしてその裏表ともいえる「女性だからこそ」の居場所、明治から昭和の動乱の時代を生き延びた経験は、その筆致にもかかわらず、いっそ生々しささえ感じられるほどです。
 巻末には本文に登場した女性歌人の作品のアンソロジーも収録されています。そのほかにも、現在地にいたるまでの足跡、後世への影響など、女性歌人たちをより深く知るための導線が各所にちりばめられており、豊かな水脈をあらたに知ることができる1冊です。