『意識の不思議』

作成者
渡辺正峰著
出版者
筑摩書房
刊年
2025.6

 「意識」とは、いったい何なのでしょうか。目が覚めている(意識がある)状態を思い浮かべる人もいれば、モノや筋肉など、何かに注意を向ける(意識する)ことを想像する人もいると思います。「意識」というものは説明しようとすると途端に難しくなり、目に見えるわけでもなく、他人と共有することもできません。それでも自分の中に確かに存在する、不思議な何かです。
 本書は、そんな意識の謎と可能性に迫った一冊です。意識とは何か、どんな可能性を秘めているのか。説明の難しいこのテーマについて、筆者は多様な言葉や事例を用いて、わかりやすく解説していきます。さらに脳神経科学の最先端、そしてその先の未来についても紹介されています。
 印象的なのは、第三章で語られる「人間の意識を機械に宿す」という思考実験です。電気で動くという点で、脳と機械には共通点がありますが、機械には意識がありません。そこで筆者は、脳内の神経細胞と同じ機能を持つ「機械細胞」をつくり、それを一つずつ神経細胞と置き換えていけば、人間の意識は維持できるのではないか――さらに、その機械細胞に通信機能を持たせれば、意識そのものをコンピュータ内に構築できるのではないか、という仮説を立てます。もちろんこれは、筆者の頭の中で描かれた、実現困難な思考実験です。しかし、この仮説に触れることで、意識が単なる感覚ではなく、臓器のように身体の一部とさえ思えてくる不思議な感覚に陥ります。
 自分が死んだとき、今こうして考えたり感じている「この意識」はどうなるのだろう。私は寝る前にそんなことを考えてしまい、なんとなく怖くなることがよくありました。難解な「意識」という世界をのぞいてみると、この現実の見え方さえ、少し変わってくるかもしれません。意識について知ることで、みなさんは好奇心を抱くでしょうか。それとも、恐怖を感じるでしょうか。