『「夢のエネルギー」核融合の最終解答』

作成者
アーサー・タレル [著] ; 田沢恭子訳
出版者
早川書房
刊年
2025.1

 「夢のエネルギー」と聞いて、どのような姿を思い描くでしょうか。二酸化炭素を排出せず、安全性が高く、燃料が枯渇する心配もなく、安定的に供給できる――そんな理想のエネルギーこそが核融合だと本書では語っています。核融合といえばSFの世界の技術という印象を持つ人も多いかもしれません。しかし本書は、それがすでに夢物語ではなく、現実の科学技術として人類の手に届きつつあることを明らかにしています。
 著者は、世界各国の研究機関や企業がしのぎを削っている現場を取材し、核融合に挑む人々である「スタービルダー」を紹介しています。彼らは、投入した燃料以上のエネルギーを取り出す「ブレークイーブン」を実現し、実用化への扉を開こうと懸命に挑戦しています。
 各章では原子核を融合させることでエネルギーを得る核融合発電の原理や仕組み、歴史を解説しつつ、核分裂によって作られる熱でエネルギーを作っている原子力発電との違いやリスクについても触れ、専門的な内容を分かりやすく紹介しています。また、最終章の監修者解説では、2020年代の核融合の現状も補足されており、最新の核融合の開発についても知ることができます。この解説は、早川書房の公式noteにて特別公開されています。
 気候変動やエネルギー危機に直面する今、核融合エネルギーの開発は「人類の切り札」として大きな期待を背負っています。本書は、その挑戦の現実と未来を知るための入門書であり、同時に科学の進歩に挑み続ける人間の姿を描いたドキュメントでもあります。