自分では動けないはずの植物たちが、庭や路地の片隅から勝手に生え、いつの間にか領土を広げているのを見かけることはありませんか。植物は自力でタネを飛ばす種類もあれば、動物の力を借りてタネをまく種類もあります。本書ではそんなタネまき方法の1つである、種子の「動物散布」について紹介されています。
たとえば、冬眠をしないニホンリスは、食物を蓄えることで越冬しますが、食糧であるオニグルミのタネを分散して貯蓄するそうです。それを全部食べるわけではなく、忘れてしまうのか、食べる必要がないのか、約1割は食べ残され、タネの発芽のチャンスにつながります。しかも、分散して枯葉の下や浅い地中に隠してあるので、発芽後もタネ同士で競合することなく成長できるのです。
一方、タネも自身を進化させています。150万年前の地層から出土したクルミ属オオバタグルミのタネの化石は、現生種よりも大きくて溝が深く、可食部が小さいのですが、次第に可食部が大きく溝が少ない、リスにとって運びやすい小型の現生種に置き換わっていったそうです。種子散布者を誘引し、より遠くへ運んでもらうための戦略なのでしょう。
タネを遠くへ運んでもらいたい植物と、可食部を食べたい動物との攻防戦をぜひ本書で確認してみてください。哺乳類だけでなく、昆虫や鳥類なども関わる「動物散布」の奥深い世界を知ることのできる1冊です。
『タネまく動物:体長150センチメートルのクマから1センチメートルのワラジムシまで』
作成者
小池伸介, 北村俊平編著 きのしたちひろイラスト
出版者
文一総合出版
刊年
2024.9