果物はお好きでしょうか。日本の果物は、世界で類を見ないほど品種が豊富で高品質だといいます。確かに、「シャインマスカット」や、イチゴでは「アスカルビー」・「古都華」など有名な品種も多く、世界でも人気となっています。本書では、柑橘、カキ、ブドウ、イチゴ、メロン、モモの6つの果物について取り上げ、日本に伝来した歴史、栽培への過程や品種改良の経緯、それぞれの品種の特徴などが詳細に述べられています。功績があった人物も具体的に取り上げられており、今、我々の食卓に美味しい果物が並ぶのは、こうした人々の努力の賜物だという事がよくわかる内容となっています。
もちろん、カキやイチゴでは奈良のことも語られていますが、私が特に気になったのはブドウの章です。ブドウは、世界的に見れば、もっとも生産量が多く、古くから栽培されている果物です。日本でも野生種のヤマブドウなどは、約5000年前から食生活に取り入れられていたようですが、日本で本格的に栽培するようになったのは江戸時代に入ってからで、それ以前のブドウは山菜と同じように野山で採集するものだったそうです。また、太平洋戦争中には、果樹はムギやサツマイモなどの必須作物への転換が求められましたが、ブドウは敵の潜水艦を探索する水中聴音機に用いられるロッシェル塩(酒石酸カリウムナトリウム)を作るのに、ブドウの果実が必要不可欠だったため、軍需部の申し入れで対象から外され、ワインとして増産されたのだといいます。また、「巨峰」や「シャインマスカット」といった生食用の大粒ブドウは、世界的には極めて珍しい品種であり、日本独自の技術の結晶なのだそうです。
これ以外にも様々なエピソードが、他の果物にも数多く語られています。知らなかったことも多く、「柿の種」や「イチゴ大福」などといった加工品への言及もあり、大変興味深く読むことができました。近年の経済不況も手伝ってか、果物が私たちの食卓に並ぶ機会は減少の一途をたどっており、果物の摂取重量はもっとも多かった1975年から半減しているといいます。本書を読めば、果物がさらに味わい深く感じることは間違いないと思います。すごい日本の果物をぜひ味わってみてはいかかでしょうか。
『日本の果物はすごい:戦国から現代、世を動かした魅惑の味わい(中公新書:2822)』
作成者
竹下大学著
出版者
中央公論新社
刊年
2024.9