『新左翼・過激派全書 1968年から現在まで』

作成者
有坂賢吾著
出版者
作品社
刊年
2024.11

書名にある、「新左翼」と「過激派」はほぼ同義で、新左翼が主には当事者側の自称であるのに対して、過激派はこれを取り締まる警察の側からの呼称である。中核派や革マル派の名は著名だが、新左翼組織はその誕生以来、組織分裂によって無数の党派(セクト)が誕生、存在してきた。その党派を潮流、すなわち「革共同系」「共産同系」「社青同系」「構改派系」「日共左派系」「アナキスト」ごとに、整理して解説を加えたのが本書である。
 本書の内容自体は、著者自身がWEBで公開していたものであるが、こうして一書にまとめられ、論文等の注として引きやすくなったことの意義は大きい。むろん、ネット情報もURLに加えて閲覧日を記すことによって、典拠となしうるのであるが、後日再検証が必要になった場合、それがもう不可能になっていることが多いからである。
 そうした意味で本書の叙述スタイルを眺めなおすと、党派機関紙誌を中心とする文献資料を典拠とする叙述に努めているのが確認できる。もちろん、ソ連崩壊の年である1991年生まれの著者は、デジタルネィティブ世代である。著者のブログを見ると、元原稿を執筆していた段階では、まだサイトとしては残っていた、「マル共連」ことマルチメディア共産趣味者連合(ツリー型のネット掲示板)への言及も見える。こうした場から得られた情報も多かったろうが、これを叙述に盛り込むことには、極めて禁欲的な態度を取っている。
 もちろん、1962年生まれの小熊英二が『1968』(新曜社、2009年)を公刊した際に起こったような、叙述のここがおかしいといった、当時者からの指摘はありうるであろう。しかし、歴史にはミクロの眼とマクロの眼の両方が必要なのであり、本書はその後者のひとつの定番になりうるであろう。加えて、著者は「はじめに」で、当時者からの指摘を待つ、としている。本書をきっかけに議論が活発になることを、一趣味者として期待したい。