本書は生き物や植物と科学に関するエッセイが16話収められている1冊です。
それぞれのエッセイ内では様々な雑学が紹介されており、6話「植物の奸計あれこれ」では、植物の巧みな生態について触れられています。例えば、ヤブガラシというつる植物は自らの茎には巻きつかないという、一見当たり前に思える性質をきちんと確かめた実験により、自らの茎には巻きつかないことに加え、同じ根でつながる株同士は巻きつかないが、根を切り離すと巻きつくことがわかったそうです。また、食虫植物ハエトリグサは、虫を感知するセンサーである繊毛に対して、20秒以内に2回の刺激があればトラップが閉まり、さらに3回目の刺激があって消化液を分泌するというシステムになっています。植物に意識はないと考える方にとって、驚きのエピソードではないでしょうか。
また、9話「菌類異聞」では、毒があってもキノコを食べようとする話から始まり、地衣類と呼ばれる菌類と藻類が共生している生物について紹介されています。子嚢菌と藻類が共生する地衣類が発見されたことをきっかけに、植物と根粒菌、サンゴと褐虫藻といった共生関係にある生き物が見つかってきました。多様な共生現象が起こるたびに、その出発点である地衣類の存在感は増していきます。そんな中、地衣類は子嚢菌と藻類だけでなく第3の菌、第4の菌と共生していることが判明します。そして、その第3第4の菌の役割はよくわかっておらず、共生現象発見のきっかけである地衣類はまだまだ不思議に包まれています。
なんとなく身近に感じられる話から日常生活ではなじみがないような話まで、自然に関する様々なエッセイ16話が楽しめます。暖かくなり様々な生き物が活発になるこの季節、身の回りの自然に目を向けるきっかけとなる1冊です。
『「生かし生かされ」の自然史 : 共生と進化をめぐる16話』
作成者
渡辺政隆著
出版者
岩波書店
刊年
2024.5