『宇宙開発の思想史:ロシア宇宙主義からイーロン・マスクまで』

作成者
フレッド・シャーメン著 ないとうふみこ訳
出版者
作品社
刊年
2024.6

 1865年にジュール・ヴェルヌの『月世界旅行』(『De la Terre a la Lune』)で初めて宇宙に人が行く物語が描かれました。そして1961年、宇宙飛行士ユーリイ・ガガーリンによる人類初の有人宇宙飛行が行われ、1969年にアポロ11号によって、ニール・アームストロングとバズ・オルドリンは月に降り立ちました。最近では、スペースX社の宇宙船クルードラゴンやボーイング社の宇宙船スターライナーによる国際宇宙ステーションへのドッキングや、三菱重工による日本の基幹ロケット「H3」の製造・打上げなど、国家事業だった宇宙開発を民間企業が担うケースが増えています。
 では、なぜ人々は宇宙を目指すのでしょうか。著者はその理由を宇宙科学と空想科学から、宇宙開発の思想を紐解き、7つのパラダイムに分けて考察しています。 
 たとえば、「ロシア宇宙主義(コスミズム)」で有名なニコライ・フョードロフに影響を受け、「宇宙開発の父」として知られているコンスタンティン・ツィオルコフスキーが描いた小説『地球をとびだす』(『Vne Zemli』)と、同時代にアメリカで批評家のエドワード・エヴァレット・ヘイルによって描かれた小説『レンガの月』(『The Brick Moon』)という2つのSF小説を対比して考察しています。このことは、宇宙開発が当初は想像上のできごとだったことを感じさせます。
 また、スペースX社のイーロン・マスクとブルーオリジン社のジェフ・ベゾスの思想に関する考察では、冷戦下、軍拡競争が宇宙に及ぶ懸念を背景に、グローバルコモンズ、平和利用といった理想が描かれている宇宙条例が、誘発需要といった資本主義の考えが入ってきたことで、アメリカでは拒絶されてきていると述べており、とても興味深いです。 
 本書からは、宇宙開発を推し進める人々は、自身の思想を実現するために、宇宙開発という手段を使っていることがわかります。そして、そうであるならば、著者が言うように、宇宙開発を使い、宇宙条約の理想が実現されることを願わずにはいられません。