例えば『世界の歴史』のような書籍を開くと、多くの場合は人類の祖先が現れた頃から始まり、やがて狩猟や農耕が行われ国家が形成されて、といった歩みが年号や固有名詞とともに綴られるスタイルが一般的なのではないでしょうか。
一方この『早回し全歴史』は宇宙誕生をスタートラインにして現在に至るまでの138億年の歴史を、天文学や地質学、生物学等の広範な学問分野でカバーしながらまとめています。
本書ではこの138億年がいくつかのフェーズに分けられ、そこで起こった事象がシンプルに記述されていきます。すべての始まりであるビッグバンから太陽や地球が形成されるまでの「無生物時代」。地球の海底に出現した微生物に始まり、多種多様な生物が進化と死滅を繰り返し、霊長類が登場した「生物の時代」。続く「文化の時代」では、言語能力や、情報を蓄積して次世代に伝える集団学習能力を獲得した人類が人口を増やし、気候変動をのり越えて進化を加速させていった様が語られます。
従来の「歴史」の守備範囲とされる数千年の間には、国家間の交流により集団学習能力が向上し、文字の誕生、印刷技術の発明により知識は共有され、交易路シルクロードが形成されることでグローバル化が促進されました。さらには産業革命以降世界で使用されるエネルギーは増大の一途をたどり、現在の私たちは、かつてないほど複雑な社会システムを構築し、地球環境に多大な負荷をかけながら存在しているのだと著者は指摘します。そして最終フェーズ「未知の時代」では、予測し得るいくつかの未来の姿が提示され、今世紀に起こることがその運命を決めるのだとしています。
本書のような歴史へのアプローチは、ビッグヒストリーと呼ばれる注目の学問分野なのだそうです。従来とは異なるタイムスケールで歴史を俯瞰するという手法で、歴史を学ぶ楽しさを新発見、または再発見させてくれる一冊となっています。
『早回し全歴史:宇宙誕生から今の世界まで一気にわかる』
作成者
デイヴィッド・ベイカー著 御立英史訳
出版者
ダイヤモンド社
刊年
2024.5