『宇宙開発をみんなで議論しよう』

作成者
呉羽真、伊勢田哲治編
出版者
名古屋大学出版会
刊年
2022.6

 近年、民間での宇宙開発が活発になっており、大きな転換期を迎えているように思います。アメリカの民間企業SpaceX社がロケットを開発した有人宇宙船クルードラゴンが野口聡一宇宙飛行士ら4人を乗せて国際宇宙ステーション(ISS)にドッキングしたり、東京の宇宙ベンチャー企業「ispace」(アイスペース)が月面探査計画「HAKUTO-R」の着陸船で月着陸を目指したりといったことが行われ、宇宙開発が国の事業から民間へ、より身近になってきています。
 それでも多くの人が、宇宙開発は自分には関係なく、科学技術の「夢」を体現する事業であると考えていると思います。しかし本書によると、通信インフラに不可欠な人工衛星・GPS技術をはじめ、ビジネス、軍事、国際関係までに渡り、宇宙開発・宇宙活動は、私たちにとってもはや無視できない領域にまで広がってきているとのことです。そのため、我々の生活に深く関わってきている宇宙開発について、専門家などに任せてしまわず、もっと市民を巻き込んだ議論を行う必要があると述べています。その手法として、立場の違う2人の情報提供者が異なる視点を提供し、それを聞いた参加者の方たちも積極的に対話に参加する「対論型サイエンスカフェ」を提案しています。
 本書は、宇宙開発の歴史や現状、実際のサイエンスカフェの様子など、「宇宙開発についてみんなで議論したい」と思った人だけではなく、宇宙開発に関心や興味がある人にも知りたい情報や考え方が満載になっています。そして、今まで「夢」や「ロマン」の延長線上で語られていた宇宙開発ですが、資源の開発競争やゴミ問題など、意外に我々の生活と直結していることに気づかされます。既にインフラの一部となってきている宇宙開発について、他のインフラと同様に自身の意見を持ち、議論ができるようにならなければいけない時代になってきていると考えさせられる1冊です。