『幸福の測定 : ウェルビーイングを理解する』

作成者
鶴見哲也[ほか]
出版者
中央経済社
刊年
2021.11

「世界幸福度ランキング・1位はフィンランド」といった見出しをニュース等で見聞きした方は多いのではないでしょうか。国際的な調査機関である米国ギャラップ社が150余の国を対象に行う幸福度に関する調査によると、2022年にフィンランドは5年連続の1位となり、上位は北欧諸国が占めています。一方、日本の順位はと言えば、2016年以降は50位台が続き、先進国のなかでは最低水準にあります。
 この調査は「カントリル・ラダー」とよばれる手法で主観的な幸福度を測ったうえで、GDPや社会保障制度、健康寿命なども加味して順位がつけられています。幸福の基準は人それぞれではあるものの、近年世界各国で行われてきた各種の大規模なアンケート調査の結果を統計的に分析すると、幸福度には多くの人に共通の傾向が見られることが明らかになったそうです。
 本書では、幸福度を客観的に考える材料として、OECD(経済開発協力機構)が提示する「より良い生活指標」を用いながら、経済的発展、働き方や人間関係など様々な指標と幸福度との関係を解説しています。
 また、国内の30万人を対象としたアンケート調査を紹介し、どのような属性の人々が自分を幸福である(不幸である)と認識しているのかを明らかにします。年齢やライフステージ、経済的な豊かさや消費行動、仕事と生活のバランスなどの指標が、主観的幸福度にどう影響するのかを学術的に解析しながら、フィンランドを参考に、これを高めていくヒントも提示されています。
 本書サブタイトルにある「ウェルビーイング」は、心身と社会的な健康を意味する概念で「満足した生活を送ることができている、幸福な、充実した状態」を表す言葉ですが、瞬間的に幸せな心理状態を表すHappinessとは異なり、持続的な、というニュアンスを含むのだそうです。極めて主観的な「幸福度」を客観的に捉えることは、それぞれの日常をあらためて見つめ直すことでもあり、ひいては持続的な幸福感につながっていくのかもしれません。その大切さに気付かされる一冊です。