『よみがえる正倉院宝物 : 御大典記念特別展 : 再現模造にみる天平の技』

作成者
宮内庁正倉院事務所[ほか]
出版者
朝日新聞社
刊年
2020.4

 奈良の秋の風物詩である「正倉院展」がまもなく開催されます。
 本書は、令和2年(2020)に全国8カ所で開催された、御大典記念 特別展「よみがえる正倉院宝物-再現模造にみる天平の技-」の共通図録です。
 正倉院宝物とは、東大寺の最も重要な資材を納める正倉院正倉に収蔵されて伝えられた約9000点におよぶ文物群を指します。始まりは、天平勝宝八歳(756)、聖武天皇の崩御に伴う光明皇后による東大寺盧舎那仏(大仏)への天皇遺愛品の献納でした。大仏への献納はその後も三度にわたって行われ、これらの献納に際し、五通の目録(総称して『東大寺献物帳』)が都度添えられ、現存するものが正倉院宝物の中核となっています。それに加え東大寺の什宝類等が収蔵され、数量的にはこれらが多数を占めています。
 しかし、約1300年を経過した正倉院宝物は、きわめて脆弱であるため、唯一無二の文化財を保護継承し、その卓越した技術を後世に伝承することを目的として明治時代から模造製作が始まり、宮内省正倉院御物整理掛が明治期後半に設置されると、当時の名工たちにより本格的な模造製作が進みました。当初、模造は修理と一体の「復元模造」事業として取り組まれており、この事業に携わった一人に、正倉院宝物をはじめ奈良県下の名宝の模写・模造の製作をし、国内外の博覧会で受賞を重ねた森川杜園がいました。
 宮内庁正倉院事務所による現在の模造事業は、昭和47年(1972)から始まり、それまでおこなっていた模造とは大きく異なり、宝物が製作された当初の姿を「再現」することに努めています。
 本書は、これまでに製作された正倉院宝物の再現模造作品から128点をカラー図版とともに紹介し、研究員による詳しい解説も付されています。各章末には製作に携わった職人等によるコラムもあり、伝統技術を継承することの意義と復元された天平の美と技に触れていただける一冊です。