『土になる』

作成者
坂口恭平画・文
出版者
文藝春秋
刊年
2021.9

 本書は、作家であり、画家、建築家などとしても多彩に活動する坂口恭平氏がコロナ禍をきっかけに故郷の熊本で畑を始めた記録です。
 畑では日々野菜が成長し、雑草が生え、虫や鳥や、ノラジョーンズと名付けた猫など、生き物たちもたくさん訪れます。毎日表情を変える自然と向き合ううちに、畑の土で陶芸を始め、また風景や変化する空の様子をパステル画で描き始めました。変化していく自然を受け止め、自身も自然の一部なのだと受け入れた時、長く患っていた躁鬱(そううつ)の症状もいつの間にか出なくなっていました。
 氏は、自らの手で耕した土に種を蒔き、その養分を吸って育った野菜を収穫して食べることで、自らの内側も外側も文字どおり「土になって」生きていることを実感し、「今の僕は知っている。内側の土壌と外側の土壌、そのどちらとも出会うことができたとき、その上に立った人間は幸せを感じるのではないか。」と書いています。
 「土になる」秘訣は、頭で考えるのではなく、畑の時間、執筆の時間などを日課とし、毎日手を動かすこと。そうして手を動かし、さらに体全体で感じることで、野菜や作品ができあがっていく。その積み重ねが生きるということなのだと、私たちに教えてくれているようです。
 本書に掲載されたパステル画からは、氏の世界観の新たな広がりが感じられます。