『天体観測に魅せられた人たち』

作成者
エミリー・レヴェック著 川添節子訳
出版者
原書房
刊年
2021.3

 人里離れた場所で満点の星空を見て息をのんだり、月食や流星群など天体ショーを観察して宇宙の秘密に想いを馳せたりと、私たちにとって夜空は不思議な魅力のある身近な存在ではないでしょうか。しかし、この身近な存在を撮影したり、宇宙の秘密を解き明かしたりする天文学者について、その実態を知っている人はそう多くはないと思います。本書によると天文学を職業としている人は、世界で5万人もいないゆえ、純粋な人がロマンを追い求めている仕事だと思われているふしがあるとのことです。
 本書は、ニュートン・レイシー・ピアス賞など、女性研究者や若手研究者に贈られる賞を次々に受賞し、2020年にTED(世界中の著名人によるさまざまな講演会を開催・配信している非営利団体)の講演で話題になった女性天文学者のエミリー・レヴェック氏がはじめて執筆した、天文学者の実態を描いたポピュラーサイエンスの本です。
 著者が24歳のとき、苦労して観測枠を勝ち取ったすばる望遠鏡(ハワイにある日本の国立天文台の世界最大級の主鏡を持つ望遠鏡)での観測中に望遠鏡が動かなくなり、再起動するかしないか悩むところから本書がはじまります。著者の経験だけでなく、100人以上の関係者へのインタビューをもとに、サソリやタランチュラが隣にいる中で観測したり、一夜限りの観測が天気に恵まれずキャリアを棒にふったり、わずかな観測時間のために南極に行ったりという信じられないエピソードを織り交ぜて天文学者の実態を紹介しながら、めまぐるしく変化してきた現代の観測天文学の様子についても描いています。
 本書を読み終えると、最終章で著者が述べているように、これからも続いていく天文学と観測者が織りなす物語を楽しみにしたいと思うと同時に、はじめに著者が再起動するかしないかを悩んだ気持ちにも納得すると思います。