『柚木沙弥郎 : つくること、生きること』(別冊太陽スペシャル)

出版者
平凡社
刊年
2021.12

 1922年東京田端生まれ。今年100歳を迎える柚木沙弥郎は今も旺盛に創作を続ける現役の染色家です。型染という日本の伝統的な染色手法を用いて大判の布に描かれた模様は、シンプルな形状と明快な色彩が特徴でとてもダイナミックな印象です。
 柳宗悦の民藝運動や、後に弟子入りすることになる芹沢銈介の作品との出会いをきっかけに始まった創作活動は優に半世紀を越えました。その間、ひたすらに布を染めた時期もあれば、絵本の挿絵、ロゴマークなどの商業意匠を手がけた時期もあり、生み出された作品は多岐にわたります。常に好奇心を持ち新たな挑戦を重ねては活躍の場を広げ、パリのギメ東洋美術館での個展が大成功を収めたのは90歳を過ぎてからのことでした。
 近年はインテリアブランドとともに、暮らしにアートを取り込むことを提案し、ホテルのロビーに掛けられたタペストリーや客室に飾られたリトグラフ、街なかのカフェを彩る切り絵アートなど、私たちの日常のシーンで楽しむことができる作品も多く制作されています。
 氏はある対談で、自身が求めるのは染色家や民藝といったカテゴリーではなくアナザー・カインド・オブ・アート、過去の定義や形式にあてはまらないアートなのだと語っています。そして、空間と物と人が自然となじむのがいい結果だとも述べています。
 本書はそんな柚木氏の活動の軌跡を辿りながら、全国各地で出会える、美術館や喫茶店のロゴマーク、お菓子のパッケージなどの作品も紹介しています。日常に溶けこみ親しまれている様々なモチーフは意外に近場で見られるかもしれません。