りん語録

作成者
谷村 志穂 著
出版者
集英社
刊年
2020.10

 私たちにとって身近な果物の一つといえば、りんごではないでしょうか。私自身、おやつやデザートとして、よくりんごを食べてきましたし、風邪をひいた時などに、すりおろしりんごを作ってもらった記憶もあり、幼い頃から慣れ親しんだ果物といった印象があります。
 この本は、そんな身近なりんごについて、小説家の谷村志穂さんが綴ったエッセイです。大のりんご好きである谷村さんは、りんごを追いかけてあちこちを飛び回ります。青森、茨城、群馬などのりんご農家を訪ねたり、神田神保町や京都ではりんごを使ったお菓子を扱うお店の取材をしたり、旅先のベラルーシやモロッコでも現地のりんごを食べてみたりなど、とにかくりんご尽くしの内容です。
 ふじ、星の金貨、ぐんま名月、はつ恋ぐりんなど、本書には数多くのりんごが登場し、りんごにはこんなにも種類があるのかと驚かされます。また、それぞれのりんごの生産者が語るりんごへの思いや栽培方法へのこだわり、りんごの種類による味や性質の違い、各地にりんご栽培が根付いていく過程など、興味深く読める話題が多く、りんごの世界の奥深さにも気づかされます。
 谷村さんの取材を受けた老舗の洋菓子店の社長は、「まありんごというのは、日常の中の果物でしょう。誰でも買える値段で、特別ありがたみもないですよね」と語りますが、谷村さんは、それがりんごの魅力そのものなのだと感じます。身近で親しみやすい存在ではありますが、されど奥が深いりんごの世界。そんなりんごの世界へ誘ってくれる一冊です。