『エビの歴史』(「食」の図書館)

作成者
イヴェット・フロリオ・レーン著 龍和子訳
出版者
原書房
刊年
2020.12

 私たちの日常生活の中で身近な食材の一つにエビがあります。食卓にのぼるエビフライやエビのてんぷらをはじめとして、エビを使ったさまざまな料理はもちろん、エビせんべ
いやエビ風味のスナック菓子は、食感や塩味の利いた風味とともに馴染みのものとなっています。
 エビを使った料理はアジアの諸地域でも多く見られ、特に新年のお祝いの席には、縁起物として欠かせないものとされているようです。これは、エビの赤い色が縁起がよいとされ、曲がった背が高齢の人の姿に似ているため、長寿を表すと言われていることによります。
 長い歴史の中で、エビは異文化の出会いによって新たなかたちにもなりました。その代表がエビのてんぷらと言えます。今では日本の伝統料理で、世界にも名が知られていますが、
もとをただせば日本に来たイエズス会の宣教師が四季の祈りと断食を行う期間「カトュール・テンポラ」で、肉食を避けるため食べた、エビに衣をつけて揚げる料理にその名の由来があるそうです。その後、日本人の口に合うように、油の吟味や、衣や揚げ方を工夫して、今日のてんぷらとなりました。
 本書ではそんなエビについて生態から説き起こして、欧米が中心になりますが古代からの歴史や文化を紹介しています。他の章では、エビを獲るための漁法や加工方法の移りかわり、環境に与える影響や労働問題、はたまた日常のファッションや大衆文化のなかのエビについても触れ、著者の幅広い薀蓄を披露しています。全編をとおしてまさにエビづくしの本になっています。 
 お正月料理をいろどるエビ。年の始まりのこの時期に、寿ぎの食材エビが辿ってきた歴史や文化に想いを馳せてみるのも一興ではないでしょうか。