『猫が歩いた近現代 : 化け猫が家族になるまで』

作成者
真辺将之 著
出版者
吉川弘文館
刊年
2021.6

 本書は、日本の近代・現代史における「猫の歴史」について書かれている。プロローグにあるように、歴史学の世界では、「語らない」あるいは「語ることができない」存在をどのようにして歴史の主体として描きうるのかという問題があるそうである。確かに猫は何も語らない。本書は、あくまでも人間社会の中での「猫」の存在を人間の側からみた「猫」の歴史であり、人間からみた「猫」の記録である。近年「猫」に関する本は多数出版されており、写真集や図鑑・生態等に関する本など内容も多岐にわたっている。
 そんな「猫」が明治時代以降の歴史の中でどのような立ち位置で存在していたのか、近代前史として江戸時代後期も含めて論じられ、絵画や史料・当時の新聞雑誌などもあわせて紹介している。近世から近代までの戯作者である仮名垣魯文により1875(明治八)年『仮名読新聞』が発刊された事や、1878(明治十一)年日本最初の猫展覧会で魯文の収集した「猫グッズ」が展示紹介された事など興味は尽きない。江戸時代の人々に化ける・祟ると怖れられた「猫」は、歌川国芳などの浮世絵に描かれた擬人化された猫や、ネズミ除けとして描かれた「新田の猫絵」など多数描かれ、明治の文豪たちに愛され、ネズミ駆除で重宝される一方、三味線や軍用の毛皮用や、震災や戦争等の食糧困難の陰で食用に供されるなど苦難の時代があったことがわかる。
 「猫」を取り巻く環境や、人間社会の「猫」に対する視点が、時代の推移によりどのように変化したのか、またその変化に柔軟に対応し「猫」がいかに今日の地位を築いたか、「猫」の歴史の一端を知ることのできるアカデミックな猫本となっている。