『海がやってくる : 気候変動によってアメリカ沿岸部では何が起きているのか』

作成者
エリザベス・ラッシュ著  佐々木夏子訳
出版者
河出書房新社
刊年
2021.6

 「気候変動」という言葉を、日本でも近年よく耳にするようになりました。人間の経済活動が環境に与える悪影響を少しでも軽減するため、生活習慣を見直そうとする動きも広まってきているようです。
 アメリカ合衆国では、気候変動はより身近で喫緊の課題として、選挙の争点のひとつとなり、この本『海がやってくる』が、2018年のピューリッツァー賞一般ノンフィクション部門の最終候補作品に選ばれるなど、この問題に対する人々の関心の高さがよくわかります。
 本書は、アメリカの沿岸部で、気候変動がどのような影響を及ぼしているかについて記録されています。研究書・学術書というよりはエッセイやフィールドワークの報告に近く、特に海面の上昇によって人間を含む生物に起きた変化が詳細に綴られています。たとえば、海抜の低い沿岸部や島では、もはや土地そのものが水没し、そこで暮らしていた人々は移住を余儀なくされていることや、水中の塩分濃度の変化により枯死してしまった水辺の木々について。もっとも印象的なのは報告される鳥や植物の多さで、人間の活動に他の動植物を否応なしに巻き込み、不可逆的な変化を強いていることの罪について考えずにはいられません。
 著者は、アメリカ合衆国における気象災害が近年激増し、深刻化していることを繰り返し指摘しますが、日本でも同様の現象は起きています。毎年国内のどこかで今までになかったような規模の豪雨災害や河川氾濫が発生し、その度に私たちは被害の大きさにおびえ、悲しみます。それらには、対症療法的な対策ではなく、より大きな視点に立った根本的な政策や変化が必要なのではないか、と読後には深く考えさせられます。