『宇宙の奇跡を科学する』

作成者
本間 希樹 著
出版者
扶桑社
刊年
2021.3

 2019年、元号が「令和」に変わり、メジャーリーグ「マリナーズ」に所属していたイチロー選手が引退表明したこの年の4月10日、あるプロジェクトチームが世界6か所で同時に記者会見を行い、アインシュタインも存在を信じていなかったあるものの撮影に成功したと発表した。それは、約200年前からその存在を予言され、ここ50~60年にその存在が真剣に考えられるようになったブラックホールの影の撮影に成功したという報告だった。
 本書は、まず宇宙全体や太陽系の謎や面白さを身近な例を出しつつわかりやすく紹介し、次にメインであるブラックホールが認知されるまでの歴史と謎、そしてブラックホールの撮影の舞台裏へと話は進んでいく。
 ブラックホールは、強力な重力で光りさえも出ることができない、宇宙の中で最大級に奇妙な天体だ。そのため、18世紀にイギリスの天文学者ジョン・ミッチェルによって初めて科学的に予言されたが、1960年代にブラックホールらしき天体が観測されるまでは、ブラックホールは宇宙に実在していると思われていなかった。そんな謎の天体だからこそ、多くの天文学者が魅せられ、存在の証明となる撮影を試みるのは必然的であった。著者の本間希樹氏は、地球上の8つの電波望遠鏡を結合させ、ブラックホールの画像を撮影することを目標としたEHT(Event Horizon Telescope/イベント・ホライズン・テレスコープ)プロジェクトに2008年から携わり、2017年4月に初めての観測に挑戦することになる。
 宇宙はいくつもの偶然が重なり奇跡的に成り立っていること、そして地球上に生命が溢れていることもその奇跡の延長上にあることを強く意識させられる。しかし、このEHTプロジェクトがブラックホールを撮影できたことは、偶然や奇跡よりも学者たちの絶え間ない努力によって、知識と成果のバトンが手渡され、さらに未来の学者たちに引き継がれ新たな成果につながっていくことを強く感じることができる。