『鹿の王』

作成者
上橋 菜穂子 著
出版者
KADOKAWA
刊年
2014.9

 『鹿の王』は2014年に上梓され、2015年には第12回本屋大賞と第4回日本医療小説大賞を受賞しました。著者は、2014年に「小さなノーベル賞」とも呼ばれる「国際アンデルセン賞作家賞」を受賞し、昨年は英語版『獣の奏者』でアメリカ図書館協会(ALA)プリンツ賞とバチェルダー賞を受賞しています。
今年『鹿の王』がアニメ映画化され、鹿つながりから奈良公園とのコラボレーションが実現し『鹿の王』と「鹿の苑」のポスターが作成されたことと、本の内容がコロナ禍に苛まれる現在の社会状況にも重なるものがあり、改めて本書に注目しました。
 本作は架空世界を描いたハイ・ファンタジー小説です。その内容は、奇しくも謎の病「黒狼熱」との戦いが大きな軸となっていて、病への不安や恐れ、治療法、新薬の過敏反応など、今の私たちにとって気になるフレーズがたくさん出てきます。登場人物の名前や固有名詞は少し覚えにくいのですが、物語は引き込まれるように読み進めることができます。主人公ヴァンとその周辺を取り巻く人々が病や大帝国・東乎瑠(ツオル)と闘い立ち向かっていく姿を描いていて、何事にも負けない強い意志と消えない希望を持った魂のようなものがそこかしこに感じ取れる気がします。過去に読んだことがある方も、今だからこそ読んでみるとまた新しい発見があるかもしれません。
 新型コロナは第4波から第5波へと進み、いつ終わるとも分からない現状に世界中が不安と恐怖に苛まれる中、ワクチンの開発と接種により何とか希望が見いだせてきたように思えます。そんな今、映画化された『鹿の王』はコロナ禍の影響で公開延長となりましたが近日公開ということなので、小説として文字から想像した世界が、どんなふうにアニメの映像になっているのか、劇場での公開を楽しみに待ちたいと思います。