『あの人が好きって言うから…有名人の愛読書50冊読んでみた』

作成者
ブルボン小林 著
出版者
中央公論新社
刊年
2021.5

 仕事柄、本に関する質問を受けることが多いのですが、その中でも「あなたの愛読書は何ですか?」という質問は、割と難しい部類だと思います。「最近読んだ本で面白い本は何ですか?」「推理小説のおすすめは何ですか?」などある程度範囲が限定された質問は答えやすいのですが、「あなたの愛読書は何ですか?」という質問に答えるということは、自分と本をイコールでつなげてしまうというか、「自分はこの本のような人間です」と宣言しているようで、なんだか恥ずかしくなってしまいます。
 本書では、有名人50人が、インタビューなどで挙げた愛読書が、その有名人の人となりを踏まえながらレビューされています。人物評と書評が一つのレビューになっているので、非常にお得な気分になります。50人の中には、スポーツ選手から俳優、芸人、文化人、政治家などがいますが、著者は有名人自身と愛読書を独自の着眼点で読み解いていきます。有名人の持つオーラ、愛読書自体が持つパワー、そして著者のユーモアあふれる文章によって非常に面白い書評となっています。有名人の中には著者のレビュー以後で人生が大きく変わってしまった方もおられ、その点も非常に味わい深いです(本書は雑誌連載が元となっています)。
 例えばこの1年ほどで人生が激変した方に菅義偉氏がおられるでしょう。菅氏が官房長官時代に挙げた愛読書は、堺屋太一著『豊臣秀長:ある補佐役の生涯』(上下巻 文春文庫 1993年)です。豊臣秀吉の弟であり補佐役、豊臣政権の調整役であった人物の評伝となりますが、著者はこの愛読書を官房長官として「自然すぎる」と評します。「生涯官房長官なら問題はないが、首相となった時に愛読書が縁の下の力持ちの評伝では具合が悪いのではないか」と心配しています。また後記に、菅氏は首相となった後に、愛読書をコリン・パウエル、トニー・コルツ著『リーダーを目指す人の心得』(飛鳥新社 2012年)に変更したとあります。著者の指摘が的中したのでした。さて、本書が2021年5月に出版されてほどなく、菅氏は首相を辞任されることになったわけですが、今後菅氏はどのような本を愛読書とするのか、ちょっと気になります。
 ちなみに、このレビューを書いている現在、次期首相候補として名前を挙げられている河野太郎氏の愛読書も本書では取り上げられていますので、御興味のある方は御一読ください。