『病と妖怪 : 予言獣アマビエの正体』

作成者
東郷隆 著
出版者
集英社インターナショナル , 集英社 (発売)
刊年
2021.4

 本書は、2020年の春頃から新型コロナウイルス感染症の拡大とともにSNSを賑わせた人魚のような姿をした不思議な病除けの妖怪「アマビエ」などの妖怪から予言獣、幸せを呼び寄せる幻獣とされる麒麟や龍、狛犬などを錦絵や瓦版などの資料を交えて紹介している。また、流行病や災害、戦争の際に絵や実像として姿を現わす妖怪達を通して日本人がどのように災いを恐れ、伝説や言い伝えとして人々に広がっていく様子についても考察している。
 大昔、庶民が恐れていたのは地震と火災、凶作と疫病だったという。人間の力ではどうすることもできない巨大な力の前では祈りを捧げるしかなかった。現代の私達も同様であり、大変興味深く感じる。
 アマビエの起源は文化二年(1805年)の赤痢流行時の「神社姫(悪魚)」だという。SNSで賑わせた愛らしさもあるアマビエの姿とは異なり、人魚のような姿は同じだが、角が二本あり、表情も険しい。年月が経ち、疫病が流行する度にバリエーションを変えていき、瓦版の定番となっていった。
 著者は、あとがきで本書を書いた動機について、どこかで展示されているアマビエを見て、この世界的な悲劇を思い返せるきっかけになればと思い、筆を執ったと述べている。「そういえば、SNSで見た覚えがあった」とアマビエの存在を懐かしく感じられる日が来るように、一日も早く新型コロナウイルス感染症が終息することを祈るばかりである。