『いつかたこぶねになる日 : 漢詩の手帖』

作成者
小津夜景 著
出版者
素粒社
刊年
2020.11

 本書は、フランス在住の俳人、小津夜景氏による漢詩の和訳を交えたエッセイ集です。
 海外在住の俳人というだけでも興味が湧きますが、その漢詩訳とは?と気になる本書。タイトルに「漢詩の手帖」とつけたのは、漢詩の解説ではなく、あくまで著者流の漢詩との付き合い方を披露するというスタンスだからだそうです。とても博識なのに全く学者然としておらず、軽やかなエッセイに親しみが持てます。漢詩の読み下し文と格闘した経験のある方なら、このしなやかな口語自由詩の訳文に、新鮮な気持ちで漢詩に触れることができるのではないでしょうか。
 本書には、杜甫や白居易といった古典の有名人から、新井白石、夏目漱石などの日本の漢詩人たちの作品も掲載されています。新井白石の蕎麦の製作工程を詠んだ作品は流麗で江戸っ子の粋を感じさせますし、漱石の鮮やかな景色の映像が浮かぶような漢詩に、文豪としての漱石のイメージが変わるかもしれません。
 また、漢詩にからめた自身の俳句も掲載されていて、俳人としての著者の作品も味わうことができます。
 著者は、詩の魅力をその短さだとします。短いから自分のペースで付き合えるし、暗唱もできます。いったん暗唱してしまえばどこでも反芻でき、本も要りません。漢詩とのそんな自由で身近な付き合い方もあるのだと思わせてくれる1冊です。