『じゃじゃ馬にさせといて』

作成者
松田青子 著
出版者
新潮社
刊年
2019.6

 本書は、翻訳家・作家の著者による雑誌連載エッセイをまとめたものです。著者は海外芸能ウォッチャーでもあり、海外の映画やドラマ、音楽や舞台作品などを中心に、日本における自身の経験なども織り交ぜながら、軽快な文体で日々のあれこれを綴ります。そこに一貫しているのはフェミニズムの視点で、女性として感じる日常の違和感を次々に指摘していきます。
 例えば2015年に公開された映画『マイ・インターン』。電話帳会社を定年退職した後の悠々自適の生活に飽きた70歳の男性(ロバート・デ・ニーロ)が、ニューヨークのウェブ・ファッション通販会社にシニア・インターンとして就職し、40歳年下の女性社長(アン・ハサウェイ)をサポートするというストーリーです。私も観ましたが、憶えているのは、YouTubeに投稿した自己紹介動画を審査するという入社試験が日本の70歳にはハードルが高いと驚いたことと、一歩引いてネット世代の若い社員たちへのサポートに徹するデ・ニーロの姿が再雇用職員のお手本だと思ったことぐらい。コメディタッチということもあり、特に分析することもなく気軽に楽しんだだけでした。
 しかしフェミニズムの視点に立つと見え方が変わります。著者は、この映画を「仕事を頑張っている女性を周囲がどう思い、どうサポートすべきかをデ・ニーロが体現してくれるフェミニズムの教科書みたいな作品」とし、「私にもこのデ・ニーロください。すべての職場にこのデ・ニーロを設置してください。この映画を見ないと社会に出られないシステムにしてください。」と訴えます。その上で、他者に気を使わないことや大切にしないことが“自由”の時代はとうに終わっており、今必要なのは「柔軟な心で新しい世界を観察し、自分にできることを見つけようとする姿勢」と述べます。
 フェミニズムは一例ですが、日常に一つの視点を持つことによって、それまで強く意識していなかった大事なことに気づかせてくれます。本書は映画評としても面白く、さらにここ数年のカルチャー情報を知ることもできる一冊です。