「走る図書館」が生まれた日 : ミス・ティットコムとアメリカで最初の移動図書館車

作成者
シャーリー・グレン作 渋谷弘子訳
出版者
評論社
刊年
2019.12

 「走る図書館」とは、現代の移動図書館車(BM=Book Mobileブックモービル)、図書館の本を運ぶバスのことです。
 本書は、アメリカで最初に移動図書館車を考え付いた女性司書、メアリー・レミスト・ティットコムの生涯について書かれています。
 19世紀の初め、まだ女性が教育を受ける機会も少ない時代に、両親は農家の娘でありながら学びたいと強く願う娘の意思を尊重し女学院に入学させました。当時の女性に開かれた職業と言えば看護師や教師以外に多くはなかった頃に、司書という新しい職業ができたことを知り、本を読むのが大好きだったメアリーは司書を目指します。まだ、司書養成学校がなく、無給の司書見習いとしてマサチューセッツ州のコンコード公共図書館で働き始め、本の購入から製本、目録作成、分類、図書館の経営まで司書の仕事すべてを学びました。
1893年シカゴ万国博覧会で「女性館」が募集していた司書に応募しますが、当時、アメリカ図書館協会会長であったデューイ(十進分類法生みの親)に不採用にされます。しかし、メアリーはそれを機に更に奮い立ちます。「来館者の目が輝く瞬間、(中略)それぞれにぴったりの本を手にのせてあげると、だれもがあっという間に笑顔になる」のが何より好きだったメアリーは、すべての住民に本を届けたいと考え続け、「本の荷車(ブックワゴン)」を思いつくのです。
 生涯司書として生き、常に前向きに力強く、熱い想いを忘れなかったメアリーの生き様は、司書として働く者たちの指標となることでしょう。