『吉野弘詩集 (岩波文庫)』

作成者
小池昌代 編
出版者
岩波書店
刊年
2019.2

 吉野弘という詩人をご存じでしょうか。すぐに思い浮かばない方も多いのではないでしょうか。国語の教科書に掲載された「I was born」「夕焼け」、結婚式の祝辞などで引用される「祝婚歌」など多くの人の心に残る作品を残した日本を代表する現代詩人です。
 「祝婚歌」は吉野氏が姪の結婚式に出席できないため、姪夫婦に書き送った詩が詩集に収録されて公表されようになったそうです。数十年ぶりにこの詩を読み、以前に読んだときの印象と時を経て、再度、出会ったこの詩に込められた想いが少し理解できたように思います。詩の冒頭で「二人が睦まじくいるためには 愚かでいるほうがいい 立派すぎないほうがいい」構えすぎないよう自然体で向き合うことを示唆し、「生きていることのなつかしさに ふと 胸が熱くなる そんな日があってもいい そして なぜ胸が熱くなるのか 黙っていても 二人にはわかるのであってほしい」と結ばれています。作者の優しくも温かい家庭人としての気持ちが溢れており、時を超えて、この詩が読み継がれる理由のひとつではないでしょうか。
 本書に収録されている「雪の日に」はロック・ミュージシャン浜田省吾氏が代表曲「悲しみは雪のように」のモチーフにしたと明かしていますし、是枝裕和監督の映画「空気人形」に引用された「生命は」も収録されています。ゆっくりと家で過ごす日々が多くなったいま、優しく心に寄り添ってくれる詩に出会える本書をお勧めします。