『日本の観光 : 昭和初期観光パンフレットに見る』

作成者
谷沢 明 編
出版者
八坂書房
刊年
2020.9

 明治維新以降の日本の近代化は、国内旅行のあり方にも大きな影響を与えました。江戸時代の寺社参詣の信仰の旅から、鉄道やバスを利用した観光旅行というように性格が移り変わりました。本書は、そんな時代の流れとともに変化する観光旅行のスタイルや日本各所の観光地の姿について、昭和初期の観光パンフレットを中心に大正期から第二次世界大戦にかけての旅行案内書、鳥瞰図を参考にしながら当時の様相を明らかします。
 「箱根登山電車」「厳島案内」「奥多摩御嶽山」といったカラフルな観光冊子で彩られた表紙を開き、さらにページをめくっていくと数々の観光案内や地図がカラーで掲載されています。その中でも特に吉田初三郎の見事な鳥瞰図にはひときわ目を奪われます。吉田初三郎は、大正期から昭和20年代にかけて1,600枚を超えるといわれる鳥瞰図を描いた絵師です。日本各地の鉄道会社や自治体などの鳥瞰図作成を手掛けて一世を風靡しました。
 本書には、「都道府県魅力度ランキング2020」で第1位を獲得した北海道をはじめ、日光、箱根・富士・伊豆、瀬戸内海など誰もが知る日本各地の観光地が紹介されています。吉田初三郎の鳥瞰図や観光パンフレットから、当時の人々がどのような観光を楽しんだのかをうかがい知ることができると同時に、当時の観光旅行を疑似体験できます。本書を手に時空を超えた観光地巡りに出かけてみてはいかがでしょうか。
 なお、本書は近畿・中部地方については扱っていませんので、残念ながら奈良県の観光地の紹介はありません。ぜひ近畿・中部地方篇の刊行を期待したいです。