『まともがゆれる : 常識をやめる「スウィング」の実験』

作成者
木ノ戸 昌幸 著
出版者
朝日出版社
刊年
2019.1

 “まとも”って何でしょうか? 解剖学者の養老孟司氏がエッセイの中でまともと思える知り合いを何人か挙げた上で「私の『まとも』の基準がまともかどうか、それはわからない」と述べているように、「これはまともだ」「あんなのはまともじゃない」などと普段なにげなく使っていて、自分なりに考える“まとも”と“まともじゃない”の境界線は確かにあるのに、いざ定義しようとすると難しいものです。
 京都・上賀茂で障害のある人ない人およそ30人が働くNPO法人スウィングの設立者で理事長でもある著者は、本書で従来の狭い障害福祉の枠を超えた〈ゴミコロリ〉〈京都人力交通案内〉〈オレたちひょうげん族〉などの活動を紹介するとともに、それに関わる“こうあるべきまともな姿”から半端なくはみ出した様々な人たちの実態を、軽快な文章で綴ります。
 全体に流れるゆるい空気、思わず笑ってしまう障害者たちの言動、そして随所に差し挟まれるスタッフたちの心のツッコミに何度も吹き出しながら、自分の“まとも”が思いきり揺さぶられていることに気づきます。そして、著者がその合間に投げかける「ケツの穴の小さい正義や正論は、結果的には自分自身の首を絞めてゆく」「『あれしちゃダメ』『これしちゃダメ』のオンパレードが、いかに僕たちの、自分自身の言葉や行動を制限し、萎縮させていることか」といった言葉にハッとし、自分を見つめ直さざるを得なくなります。
 本書を読み終える頃には、自分の“まともか否か”の境界線がかなり遠くに移動しているはずです。それは、他者への許容値が広がったとも、自分自身に対して寛容になったとも言えるのではないでしょうか。著者もこう書いています。「誰かに対して投げかけたOKは、きっと自身自身の何かを赦し、少し呼吸をしやすくさせてくれる」と。