『ヒトは7年で脱皮する : 近未来を予測する脳科学』

作成者
黒川伊保子 著
出版者
朝日新聞出版
刊年
2018.12

 ヒトの脳には周期があるそうだ。何かを気に入り支持したとして、それが好きでたまらない状態は永続しない。流行が生まれては廃れ、恋に賞味期限があると言われるのは、脳に設定された期間限定の作用によるもので、その長さには平均値がある。それゆえヒトは、それが好きで心地よく感じる、ある一定の期間を過ぎると、自然と飽きていくのだそうだ。
 本書著者は、男女の脳の違いから起こるすれ違いを描いた『妻のトリセツ』で知られる黒川伊保子氏。AI研究やことばの感性の研究に携わり、現在は感性分析の第一人者として、独自のマーケティング論を拓いている。
 さて、ヒトの脳には周期があるだけでなく、7という数字に特別の感覚を覚えるのだとか。脳には「全体」を表すテーブルがあり、そこに7つの座席がある。よって、多くの人は7つまでの情報ならば正確に把握することができ、7つが埋まることで、何となく一揃いした感じがするのだという。
 さらに、7日で1セットの1週間を単位として生活するヒトの脳には7日周期が存在し、身辺に起きた急激な変化に順応していく最初の期間が7日、その後14日、28日、49日と7の倍数の日数をかけて慣れていく。そしていつしかその環境に落ち着いたときに、一巡したと感じるそうだ。 
 このようなヒトの脳のデフォルトともいうべき特徴を前提に、本書後半では流行の正体が解き明かされていく。前出の7日周期の法則を用いて流行を考えると、時代の最先端をいくデザインは、7年の期間をかけて定番に変わっていくそうだ。
 車のデザインを例にこれを検証すると、本書が刊行された2018年における車の形は、曲線を用いたデザインの周期にあるとのこと。その後徐々に直線的デザインに変容していく過程を経ながら、計28年をかけて過去に主流であった四角いフォルムへと戻っていくだろうと予測している。
 そういえば今街なかを走っている車はどんなデザインが多かっただろう。日々の生活やルーティンワークに、ふと一巡したような感じを覚えた瞬間はなかっただろうか。
 身のまわりに起こる事象を思い起こしたときに、妙にしっくりくるような、腑に落ちるような感覚を味わった一冊であった。