『図説 ヴィクトリア朝の子どもたち』

作成者
奥田実紀, ちばかおり 著
出版者
河出書房新社
刊年
2019.12

 本書は、英国のヴィクトリア朝時代の子どもたちの暮らしについて、豊富な図版とともに紹介されている。
 著者は、それぞれ児童文学に関する著作を出版しており、本書においても英国の児童文学の作品も併せて紹介している。
 英国のヴィクトリア朝時代は、ヴィクトリア女王が即位した1837年から1901年までをさし、女王が即位した1837年は、世界に先駆けておこった産業革命の完成期でもあり英国が、最も繁栄した時代といわれている。産業革命は、生産技術の革新とエネルギーの変革で、綿工業から始まり、人力に代わる機械の発明やそれにともなう蒸気機関の利用は、綿工業から機械、石炭などの重工業と広まり社会情勢や生活様式などに大きく変化をもたらしている。大きな変化の中で、子ども観もまた、大人とは違う保護すべき無垢な存在という新しい子ども観が生まれ、英国の児童文学も大きく花開き、今日の名作として読み継がれている作品を多く生み出したと言える。
 本書では、子ども時代をその誕生から、赤ちゃん時代・幼児時代・学童時代と分けられ、ヴィクトリア朝の子育てから子どもたちの一日や子供服の誕生や、子どもの本の誕生、教育や食事・楽しみなど図版とともに紹介され興味が尽きないが、産業革命は貧富の差が顕著にみられ英国の階級社会の一面が浮き彫りにされる。バーネットの『小公子』セドリック、『小公女』のセーラやディケンズの『オリバー・ツイスト』のオリバーなど、階級社会の光と影のような、境遇の孤児の物語なども多く生まれている。
 本書は子どもを取り巻く問題についても浮き彫りにしており、図版を見比べながら、詳細な解説は今までに無い視点で英国の児童文学を語っており、より深く考えることのできる1冊となっている。本書を読んで、読み親しんだ英国の児童文学をより深く味わい、物語の持つ豊かな世界に触れるきっかけとなる1冊である。