『絵はがきで見る日本近代』

作成者
富田昭次 著
出版者
青弓社
刊年
2005.6

 昔から、観光地などでよくお土産や記念品として売られていた絵はがきが、何十年何百年後には史料として貴重なものになると、その価値を今再認識しています。 
 日本で絵はがきブームが到来したのは明治37(1904)年9月逓信省が日露戦争の戦勝記念絵はがきを発売した時で、戦地の様子を知らせる絵はがきが長蛇の列を生むほど大人気になったようです。民間の絵はがき発行も明治33(1900)年から認可されていて、ますます盛んになり世の中の出来事を絵はがきにして次々と売り出されました。また、その名の通り絵を描いたはがきは画家たちの作品の発表の場にもなっていたようです。
 本書には、日本初の私設図書館南葵文庫、初の豪華客船・天洋丸、初の地下鉄上野駅、博覧会、港や橋、建造物など300点を超える絵はがきが収載されていて、1枚の絵はがきに、その時代の出来事や歴史的背景などの説明が書き添えられています。奈良名勝、興福寺の五重塔と猿沢池のほとりにたたずむ人力車の絵はがきでは、人力車の発案者や営業状況などについて、京都の路面電車の絵はがきでは、なぜ東京ではなく京都が一番乗りだったのかについて言及しています。最後に、あとがきの中で京都の路面電車の絵はがきから、「そのなかに一人の少女がいる。ルーペでよく見ると、誰かに向かってなのだろう、彼女は明るく笑っている。(中略)彼女は、その後幸せな人生を送ったのだろうか―こういう絵はがきを見ると、いつもそう思わずにいられない。」と書き留めていて、著者の深い洞察力と想いを知ることができます。
 明治から昭和時代まで日本の近代を絵はがきの画像と解説でより鮮明に読み解くことができる大変興味深い1冊となっています。