『経済政策で人は死ぬか?:公衆衛生学から見た不況対策』

作成者
デビィッド・スタックラー, サンジェイ・バス 著 / 橘明美 , 臼井美子 訳
出版者
草思社
刊年
2014.10

 新型コロナウイルスが世界中で猛威を振るっている。ウイルス感染症の脅威が拡大する中、社会や経済にも深刻な影響を及ぼしつつある。今後の対策として国がどのような政策を打ち出すのか、誰もが注目しているところだろう。
 本書は、著者である公衆衛生学者の二人が世界恐慌からリーマンショックまで各国の医療健康データに基づき、大不況にとった政策が健康にどんな影響をもたらしたのかを分析し、不況時の政策に私たちが向けるべ視点を教えてくれている。また、ニューディール時代のアメリカ、ソ連崩壊、アジア通貨危機、リーマンショックの後に起こった様々な悲しい出来事が語られ、データだけではみえない問題を浮き彫りにしている。
 仕事、住居、医療は人々の健康や命に直結し、それらが安定していなければ命は脅かされる。セーフティーネットや社会保障制度が、人の生死に最も大きな影響を与えるという。それならば不況の対策に、政府はセーフティーネットを張り巡らし、社会保障制度を充実させればよいと考えるがそうはいかないらしい。財政赤字を是正するため緊縮財政へと舵を切り、大切な社会保障制度を削減している国は多い。しかし過去の死亡統計を見ると、緊縮財政策で予算を削減すればかえって財政赤字が膨らみ、人的被害がでるといった結果が出ているそうだ。
 今回のコロナショックでは、大きな経済的被害が予想される。日本は膨大な財政赤字をかかえているが、人々の命を守ることが急務である。その先に、明るい未来があると本書は教えてくれている。