『本を読めなくなった人のための読書論』

作成者
若松英輔 著
出版者
亜紀書房
刊年
2019.10

 本を多く読む裏技や速読法について書かれた本は沢山ありますが、本書はそれらとは異なる目線で「本が読めなくなった」という珍しいテーマで書かれています。
 読書が好きな方でも、読もうと思っていた本が床に積み上がったままで読めていない、漢字が難しくて本を読むことに自信を失くしてしまった、書いてある内容が理解できず自分の知識が無いからと読むのをやめてしまった、何となく気分が乗らないなど様々な理由で本を読むことから遠ざかってしまった経験は誰もがあると思います。
 著者は、読書は「対話」だと言います。読むべき本との出会いを焦らずに待ち、量よりも質が大切であると述べています。読んで心に響くような「たしかな」手ごたえを感じられる質だと言うのです。さらに、従来から多くの人達が持っている読書に対するイメージにとらわれず、読めない時は読めなくて良い、全部読まなくても、順番どおりに読まなくても良い、正しい読み方は存在しないと優しく諭してくれます。
 本書は、手に収まりやすい大きさ、読みやすい文体、文字数、行間でスラスラと読み進めていくことができます。著者から掛けられる優しい言葉は、重荷から解放されたように心がホッとさせられ、本が読めなくなって落ち込んでしまった時の処方箋のようにさえ感じられます。最近、本を読めなくなってしまった…という方にお薦めしたい一冊です。