『アラフォー・クライシス : 「不遇の世代」に迫る危機』

作成者
NHK「クローズアップ現代+」取材班 著 
出版者
新潮社
刊年
2019.2

 2017年と2018年の2回に渡って放送され大きな反響を得たNHKのテレビ番組「クローズアップ現代+ アラフォー・クライシス」に、番組では取り上げられなかった取材内容も加えて本年2月に書籍化したものである。アラフォーとは一般的に35~44歳までの年齢層を意味するが、ここでは1990年代末から2000年代初めの求人が極端に少なかった時期、いわゆる「就職氷河期」に新卒者として就職活動をすることになった「就職氷河期世代」のことを指す。
 本書は、世代ごとの平均給与を2010年と2015年で比較したデータを提示することから始まる。そこから明らかになったことは、他の全ての世代は5年前と比べて給与が上昇しているのに対し、35~44歳のアラフォー世代のみ給与が下落しているという衝撃的な事実である。下落の要因は複数あるのだが、主たる原因はアラフォー世代の少なくない割合が非正規雇用で働いているということにある。
 2019年現在、求人倍率は高水準を維持し、新卒者の就職活動は売り手市場と言われているが、アラフォー世代にとって「就職氷河期」「非正規雇用」「ワーキングプア」「派遣切り」といったものはまだ克服されていないリアルな問題である。本書はデータや識者の意見の他に、アラフォー世代へのインタビューも交えながら「婚活」「7040問題」「きょうだいリスク」などアラフォー世代を取り巻く困難な状況を紹介していく。
 一方で、貧困に苦しむ人に取材したルポルタージュは近年多く連載、出版されており、ネットで検索すれば簡単に読むことができる。貧困に陥った個人の状況と来歴を詳述したルポは、書き手の思いを離れて個人的な問題として読まれがちである。読者の多くは「貧困は個人の自業自得」という安易な結論に至ってしまうか、個人の人生という物語の中に悪役や悲劇を見つけて満足してしまう。本書のインタビューがいかに切実なものであっても、そこだけを切り取って読むならば、貧困の物語という洪水の中に埋もれてしまうかもしれない。また、本書で紹介されるタームや概念は新しいものではない。ワーキングプアにしても7040問題にしても既に広く知られているものであり、関連書籍も刊行されている。
 本書の価値はそのような問題や個人の苦境を紹介したことだけではなく、それぞれの問題を一つの世代と結びつけて丁寧に解き明かしたことにある。個人の問題は個人で解決されるべきものとして扱われ、個人の内に閉じてしまいがちであるが、これは世代の問題、日本社会全体の問題なのである。第二次ベビーブーム世代でもあった就職氷河期世代には経済的な理由により子どもを持てなかった人が多く、結果として第三次ベビーブームは起きておらず、日本の少子高齢化はさらに加速することとなった。アラフォー・クライシスは既に日本の将来に大きな影響を与えている。アラフォー・クライシス対策はもう手遅れになるギリギリの瀬戸際なのだ。本書ではアラフォー世代に特化した就職支援など、希望が持てる取り組みも紹介されている。
 先に述べたようにアラフォー・クライシスや現代日本の貧困問題に関しては多くの情報があふれている一方で、当事者の個人的事情のみが注目されやすい。本書はミクロな視点とマクロな視点の両方からバランスよく紹介されているので、この問題について気になっている方はまず初めの1冊として読んでいただきたい。