『胎児のはなし』

作成者
増﨑英明・最相葉月著 
出版者
ミシマ社 
刊年
2019.2

 本書は、胎児医療40年の増﨑さんに、ノンフィクションライターの最相さんが質問をぶつける形で構成された対談集です。
 かつて、胎児は見えない存在だったものが、増﨑先生が産婦人科医になった頃から、超音波検査により画像で見えるようになり、2000年頃には3Dの立体表示が可能となって、今は胎児の動きまで見えるようになりました。
 胎児は、子宮の中で笑ったり、泣いたり、あくびをしたり。子宮という完全な密室のなかで、胎児は水中生物として生きていて、私たちとは別種の生き物なのだと増﨑先生は言います。
 1日700cc排出するおしっこを自ら飲み、うんちは出さずにためておいて出産時に出すことで羊水を清らかに保っていたり、羊水を鼻から出し入れすることで、呼吸の練習をしていたり。先生に言わせると、これらは胎児にとって大事な仕事。胎盤に守られた胎児のうちに、陸上生物として生きる準備をしているのです。
 子宮の中では水浸しの肺も、出産時に狭い産道を通ることで中の液体が絞り出されて、空気が入る余地が生まれ、おぎゃーと泣く前の息をすっと吸い込めるのだとか。出産の仕組みも合理的で、なるほどと感心することばかり。
 他にも、「半異物」である胎児をなぜ母胎は排除しないのか、最先端の生殖医療によって、出産や家族の形はどうなるのか、など疑問は尽きません。最相さんの鋭い質問と、増﨑先生の擬音語を交えた、胎児への愛にあふれた語りのやりとりは読んでいて楽しく、ためになります。
 こんなに「見える」ようになった胎児ですが、まだまだ分からないことがたくさんあるそうです。かつては胎児だった自分が、こうして子宮の中で、健気に頑張っていたのだと思うと、なんだか不思議で、覚えていないのになつかしいような気持ちがします。子宮の中は相変らず神秘に満ち、だからこそ命は尊いと教えてくれる1冊です。