『辺境の怪書、歴史の驚書、ハードボイルド読書合戦』

作成者
高野秀行・清水克行 著
出版者
集英社インターナショナル
刊年
2018.4

 読書と同じほどに、しばしば読書以上に面白いものが読書会です。気の合う友人と読み終わった本についてあれこれ語り合うのも良いですが、視点や専門分野が異なる人の間で語り合えば、お互いに新たな発見に繋がることも珍しくありません。
 本書は世界の辺境を取材するノンフィクション作家の高野秀行氏と日本中世史を専門とする歴史家の清水克行氏の二人が、それぞれの気になる本を取り上げてお互いの視点から語り合う対談です。現代ソマリランドと室町時代の日本が似ているという驚きの発見から始まって、世界の辺境と日本史を様々な角度から比較した前作『世界の辺境とハードボイルド室町時代』も非常に面白かったですが、本書も知的な発見に満ちたものでした。
 たとえば第一章で取り上げられているジェームズ・C・スコット著『ゾミア:脱国家の世界史』では、インドシナ半島の奥地ゾミアに住む焼畑農耕民が、実は国家から逃れ自由と自治を得るためにあえて前近代的な生活を営んでいるという説が唱えられています。国家の枠組みから逃れるために戦略的に文字を捨てたという話などはにわかには信じがたいですが、二人は専門分野や経験に基づいて様々な視点から縦横無尽に語り合います。
 世界の辺境や過去の日本の新たな一面を知り、それらのイメージが更新されることは知的にスリリングですし、私たちが暮らす現代の日本についても今までとは違った形で見る機会にもなります。ちなみに、本書のカバーには馬型バイクに乗ったコサック兵という歴史がリミックスされたような山口晃氏の絵が採用されており、本書の雰囲気にぴったりと合っています。
 本書には前述の『ゾミア:脱国家の世界史』の他に7冊が取り上げられています。そこから気になった本を読んでみるのも良いですが、専門書、歴史書なども多く、イブン・バットゥータ著『大旅行記』のような大部の書物もあり、全てが手に取りやすい本とは言いがたいです。そのような8冊を二人の専門家がわかりやすく紹介し解説した本書は、一冊読むだけで専門書、歴史書を8冊読んで、質の高いゼミ、読書会に参加した気分にもなれる非常にお得な本だと思います。