『デズモンド・モリスの猫の美術史』 

作成者
デズモンド・モリス 著 柏倉 美穂 訳
出版者
エクスナレッジ
刊年
2018.7

  動物行動学者で画家でもあるデズモンド・モリスは、本書において旧石器時代から現代までモチーフとして描かれた絵画の中の猫について解説している。フランス・ガビュの洞窟画から現代アートにいたる134の猫たちに、改めて古今東西多くの美術作品に猫が登場していることに驚かされる。
  現在、国内において飼育頭数トップに君臨する猫だが、その歴史をひもとくと、エジプト神話の女神バステトに代表されるように聖なる存在とされていたかと思えば、12世紀から17世紀末までのヨーロッパにおける黒猫のように悪魔の化身と思われていた時代もある。本書は、こういった猫の置かれた状況の変化も浮き彫りにしている。
 近代以降、猫は可愛がられる幸福な存在として巨匠作品にも登場し、現代アートでも様々なかたちで描かれ、私たちを魅了してきた。「東洋の猫」という章では、インドや中国、朝鮮などの絵画とともに、日本の葛飾北斎や歌川豊国、藤田嗣治などの作品が紹介されているが、地域や年代、絵画の技法等によって猫の描かれ方はまさに千差万別。そのほか「ナイーブ・プリミティブの猫」という章では日本の絵本作家ミロコマチコの作品も例示されていて興味が尽きない。
 近年開催の猫を主題とした展覧会に出品された作品解説も多数あり、鑑賞した人にとっては改めてその作品に触れる楽しみ方もある。猫好き、芸術好きにとっては、掲載されている作品の展覧会をぜひどこかで開催してほしいと思わせる1冊である。