『坐の文明論 : 人はどのようにすわってきたか』

作成者
矢田部英正著
出版者
晶文社
刊年
2018.6

 みなさんは、すわるという行為について日頃意識することはあるでしょうか。椅子に腰かけ、机を使って作業をすることが定着しつつある現代ですが、かつて人類の大半の地域では、そういった椅子座は当たり前のものではありませんでした。
 本書は、すわるということを通じて人間の存在と空間のあり方を考察した1冊です。
 タイトルの「坐(ざ)」は「すわる人間の形」を表し、その上に广(まだれ)をかぶせて「座」となると人がすわる空間を意味します。すわる文化は、地面に直接坐る「床坐文化」と、地面より高い場所にすわる「椅子座文化」に大別されます。
 日本はもともと「床坐文化」であり、「正座」や「胡坐(あぐら)」等の坐り方や、「座敷」「歌舞伎座」「楽市・楽座」といった、人々がすわる空間としての「座」の言葉がたくさんあります。対してヨーロッパや中国では「椅子座文化」であったために、坐り方の単語は少ないのに対して、椅子の種類や機能に対して日本語をはるかに上回る単語があります。
 日本では床坐をもとに、畳敷きの和室の空間が生み出され、帯や袴の腰板などの装身具によって、骨盤一帯に緊張を与え、作業姿勢や着坐時にかかる腰へのストレスを回避する方法が取られてきました。
 生活の欧米化に伴って椅子座が世界を席捲していることに著者は危機感を覚えています。日本人でも、座敷などに正座で坐ることに抵抗を感じる人が多くなってきていますが、著者によれば、「楽にすわるための技術を身につければ、長時間すわっても決してストレスにはならない」のだそうです。
 世界各地のすわる文化を知るとともに、わたしたち日本人の文化のルーツである床坐の文化を知ることで、椅子座を含めた現代の生活にヒントを与えてくれる1冊です。