『「終活」を考える : 自分らしい生と死の探求』

作成者
浅見 昇吾 編
出版者
上智大学出版
刊年
2017.3

 昔から一人の空間・時間に身を置くと、もし自分の余命があと1年だとわかったとき何か新しいことを始めるだろうか、半年だったときは何かやり残したことはないだろうか、3ヶ月だったら・・・と自問自答することが習慣化しています。今ではこの方法は、悔いの残らない人生を歩めるよう自分に向き合う一つの手段となっています。さて、そんなことを考えていると、副題の「自分らしい生と死の探究」が気になって本書を手に取ってみました。
 本書は、上智大学の社会人講座のスピーカーを中心に、様々な立場の執筆者が、幅広い視点から終活について論じています。終活という言葉は2009年に『週刊朝日』が使ったのが初めてだそうですが、当初の終活は主にお墓や葬儀の事前準備が話題の中心でした。しかし、終活の普及とともにその意味に広がりが出てきており、終活カウンセラー協会の定義では「人生の終焉を考えることを通じて自分をみつめ今をよりよく自分らしく生きる活動」とのことです。このような広義の終活を念頭に置き執筆された本書は、単なるノウハウの紹介ではなく、老後、介護、地域医療、終末期医療、死生観におよぶまでそれぞれの執筆者の知識と経験に裏打ちされた終活論が展開されています。
 この意味での終活では、十人十色の終活の在り方が模索されます。そして自己決定権という考え方が中心に据えられます。いいかえれば、死ぬまで自分の人生に責任を持って生きるということでしょうか。しかしこの自己決定権という考え方の普及には、肯定的な側面がある一方で、自分らしく生きたくとも生きられない現代社会の矛盾があります。地縁・血縁の希薄化、核家族化、経済格差、少子高齢化、過疎化、医療保険や介護保険といった制度的な問題など現代の社会問題が終活を行う上においても根深く関係しています。
 本書を一読して、日々生と死に向き合う執筆陣をもってしても、終活に正解というものはないのだとあらためて考えさせられました。多様化する現代社会にあって、人の生と死についても選択肢が増え続けています。生き方に答えはないし、人生の終焉まで自分らしさを貫徹することは容易ではありませんが、生ある今という時間を見つめなおす一助となる1冊です。