『僕がロボットをつくる理由:未来の生き方を日常からデザインする』

作成者
石黒 浩 著
出版者
世界思想社
刊年
2018.3

 黒い髪、黒い服、意志が強そうな表情までそっくりな男性二人が並ぶ姿を、テレビや雑誌などで見かけたことはないでしょうか。ロボット研究の世界的権威である石黒浩氏と、いわゆる「不気味の谷」を越えた自身そっくりの人間酷似型ロボットです。本書では、石黒氏がなぜロボットを人間に似せようとするのか、そして人間らしい機能をもったロボットが普及した社会で、人間はどう生きていくのか、身近なテーマをもとに、遠いようで案外近いかもしれない未来の話をしてくれます。
 例えば第1章では、「食べる」ことにロボットがどう関わるかについて触れています。
料理は完全に自動化され、「料理をつくるロボット」が家庭やレストランの料理を作り分けたり、食材の食べ頃や家族の体調、好みを考慮したりして、「お母さん」のような役割を担えるようになると述べています。
このように「食べる」という動物的な部分やほかの単純な部分がロボットや技術に置き換えられていくと、今まで生きていくことに精一杯だったのが、考える余地が生まれ、より人間らしく生きるということにつながるとのこと。そうして技術が進歩した近未来は、仕事が減るとか、コンピュータに乗っ取られるということではなく、選択肢が増える未来であり、誰もが自分で好きな生き方をデザインできる未来だと説いています。
 石黒氏は、本書で、機能性・効率性を求めて服はいつも黒を選んだり、アンドロイドに合わせて整形手術をしたりしていることなども、持論を交えて話しています。逆にそこが効率重視を越えた石黒氏の「人間らしい」一面に思われて、研究者としての信念に基づく日常生活のエピソードも興味深いです。