『誤解されやすい方言小辞典 : 東京のきつねが大阪でたぬきにばける』

作成者
篠崎晃一 著
出版者
三省堂
刊年
2017.6

 タイトルに「きつねがたぬきにばける」と書かれているのを見ると物語か民話の話かと思われるかもしれませんが、本書で取り上げられているきつねとたぬきは食べ物の事です。お店でたぬきと注文する時、思い浮かべるのはどんな具材の麺類でしょうか。東京では、きつねは油揚げをのせたもの、たぬきは揚げ玉をのせたものを指し、大阪ではきつねはうどん、たぬきはそばを指します。つまり東京できつねそばと呼んでいる食べ物が大阪ではたぬきと呼ばれている、きつねがたぬきにばける、という事なのです。
  このように、地域によって使い方が異なる言葉は多くあり、地域特有の表現でありながら、そう認識されていない方言は特に「気づかない方言」と呼ばれています。方言というと他地域では使われず、聞いた事もない表現ばかりをイメージしてしまいますが、本書の目次を眺めてみても、意味のわからない言葉は全くありません。本書はそうした「気づかない方言」を181項目掲載しています。
  中には、限定的な都道府県で使用されていたり、離れた場所で同じ用法が使われていたりといった例もあります。項目ごとに方言が使用されている地域が日本地図で表わされ、ビジュアル的にわかりやすくなっています。奈良県で特有の方言には「まわり」があるそうです。「はよ、まわりしーや、電車に乗り遅れるで」などと使うのですが、意味はお分かりになるでしょうか。ここでは準備の意味で使われており、「早くしたくをしなよ、電車に乗り遅れるよ」という意味になります。
  紹介されている方言の中には、コミュニケーションの上で誤解を招く表現も多くあります。日本国内なのに上手く言葉が通じていないと感じたら、それは「気づかない方言」のせいかもしれません。普段何気なく使っている言葉の違う一面を知ることができる一冊です。