『ただめしを食べさせる食堂が今日も黒字の理由』

作成者
小林 せかい著
出版者
太田出版
刊年
2016.12

 ただめしを出す食堂が黒字経営?
 果たしてビジネスとして成立するのかと疑問に思われる方も多いと思います。私もその1人でした。ですが、このカウンター12席だけの小さな定食屋「未来食堂」の店主小林せかいさんは、自信を持ってその経営スタイルを自ら紹介されています。
 メニューは日替わり定食1種類だけ。誰でも50分間店の手伝いをすると1食分無料になる「まかない」、その無料の権利を他の客に譲る「ただめし」、店にある食材でオーダーメイドできる「あつらえ」等ユニークな仕組みが行われています。「ただめし」というのも、店側の持ち出しではなく、「まかない」と組み合わせることによって無理なく成立させているのだそうです。
 彼女の世界観の原点は、15才の時に1人で喫茶店に入った時の体験だといいます。家でも学校でもない、「ありのままの自分」が受け入れられる空間に、自分も同じような空間を作りたいと思ったそうです。
 元エンジニアという異色の経歴から、店の売り上げや事業計画書も全てウェブで公開するという、IT業界では当たり前のオープンソースの考え方を取り入れています。チェーン展開などは考えておらず、同じ理念を共有できる店主による店が全国に増えることを望んでいるそうです。
 飲食店業界の常識を疑い、「誰もが受け入れられ、誰もがふさわしい場所」を目指して、定食屋としてできる範囲で果敢な挑戦をする小林さん。同じように個人経営の店を開きたい人はもちろんのこと、新しいことにチャレンジしてみたい人、現在の職場の中で仕組みを見直してみたい人にとっても大きな気づきが得られる1冊ではないでしょうか。