『大和のたからもの(奈良を愉しむ)』

作成者
岡本彰夫著 ; 桂修平写真
出版者
淡交社
刊年
2016.3

 長年春日大社の権宮司を勤め、日本文化、特に地元奈良の伝統文化への造詣が深い著者が大和千三百年の間に受け継がれてきた匠の技や、伝統の造形など、奈良でしか出会えない美の姿を近世・近代の美術工芸を中心に「大和のいのり」、「大和のいとなみ」、「大和のたくみ」の三章立てで紹介している。
 第一章の「大和のいのり」では、祈りの中で伝えられてきた神具や仏典、彫像。第二章の「大和のいとなみ」では、大和で暮らす人々が、愛で・遊び心を籠め遺した書や絵画。第三章の「大和のたくみ」では、大和の土の上で思いを尽くし、極め・磨き・伝えてきた数多の技と、匠たちが紹介されている。
 本書中の「奈良博覧会」では、大和の社寺に伝来した、すばらしい美術工芸品「大和古物(やまとこぶつ)」について記されている。神仏分離令によって、荒廃した社寺から民間に流失した古物の多くが外国に売却されたことから明治四(1871)年に「古器旧物保存方」を定め、その翌年に文部省が近畿東海の古社寺の宝物調べた「壬申調査(じんしんちょうさ)が行われた。この調査に従事した文部省の蜷川式胤(にながわのりたね)が奈良県権令・藤井千尋を動かして、行われたのが「奈良博覧会」であり、その目的は古器・古物の保存の啓殖産興業のための模写事業と販売であった。この事業により、正倉院等の宝物の補修・模写が進み、それらに携わった技術者を保護したことにより、その高度な技術が現在まで受け継がれている
 巻末には、掲載作品一覧・資料・さくいんがあり、美しい写真とともに解説が添えられており、古都の技と美の軌跡を味わえる一冊である。