『世にも奇妙な人体実験の歴史』

作成者
トレヴァー・ノートン著
出版者
文藝春秋
刊年
2012.7

  『食材小事典:旬を食べる12か月(家の光協会2001年刊)』によりますと、4月の食材にはウニがあり、この時期はもっとも美味なバフンウニ の旬だそうです。
  ところでこのウニ、人類史上初めて食べた人ってすごくないですか?見た目的に。タコやクラゲもそうですよね。あとナマコとか。海の幸に限らず、 キノコや納豆なども、口に入れるにはかなりの勇気が必要だったと思います。
  これを話題にすると、人によって様々な食材が次々に挙げられそうな気がしますが、いずれにせよ、先人たちはよくぞ発見してくれたものです。   逆に、フグの肝や毒キノコのように現在ではその毒性が分かっているものも、かつて実際に「食べてみた」勇者がいたわけで、彼らは食べられる食材 を発見した人たちと並び称されるべきではないでしょうか。
  さて、今回ご紹介するのは、自分の体を実験台にした科学者たちのエピソードが綴られた一冊です。
  例えば、19世紀半ばにニトログリセリンを舐めてみた医師はあやうく死にかけながら、それが心臓病に効くことを発見しました。
  19世紀末の生理学者は自ら一酸化炭素中毒になってみて症状を記録し、ガス検知にカナリアを用いるきっかけを作りました。
  また、20世紀初めの医師は上司の命令に背いて自分の心臓にカテーテルを通し、さらに危険を冒して造影剤を注入する実験まで行い、後にノーベル 賞を受賞しました。
  麻酔薬の開発者たちは、効果があると見込んだ物質を自分の体で試しては中毒になりました。また反対に、20世紀半ばに、クラーレという矢毒が麻 酔薬として有用かどうかを自分の体で試した製薬会社の研究者は、クラーレを経口摂取した後に、体に貼られた大きな絆創膏を引き剥がされ、麻酔効果 がないことを思い知らされました。
  自己実験は愚行かもしれません。しかし、例えばアスピリンは猫にとって、ペニシリンはモルモットにとって致命的な毒物ですし、コレラや黄熱病のよ うに人間しかかからない病気もありますから、人体実験が不可欠な場合もあると言えます。それに、急激な加圧・減圧実験で両耳の鼓膜が破れ、歯の詰 め物が爆発した生物学者は、自己実験することについてこう述べています。「(実験用)ウサギには人間に協力しようという姿勢が見られない」と。
  私たちが効果的な医療を受けたり、季節ごとにいろんな食材を楽しめるのは、体を張ってくれた有名無名のチャレンジ精神あふれる偉人たちのおかげ ですね。

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