映像作家・保山耕一氏が綴る映像詩『奈良、時の雫(しずく)』からセレクトした作品を月替わりで常設上映する企画。
12月の映像は「古墳の美」(上映時間約24分、リピート再生)
陵墓及び陵墓参考地でありますが、これは現に皇室において祭祀が継続して行われているところでありまして、皇室と国民の追慕尊崇の対象となっております。静安と尊厳の保持が最も重要なことであり、したがって部外者に陵墓を発掘させたり立ち入らせたりすることは厳に慎むべきことと考えております。(「参議院会議録情報 第159回国会 内閣委員会 第4号、2004<平成16>年3月24日)
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古墳の管理について宮内庁は「静安と尊厳を保持する」と答弁しています。静安と尊厳の保持。すごくシンプルだけど、古墳を表現するのにいい言葉だと思います。基本、古墳本体への立ち入りは禁止されています。つまり、手つかずの自然が残っているのですね。
今回、登場するヒシャゲ古墳の周辺には、映像にも映っていますが、ガラスのかけらがキラキラしているような羽根のチョウトンボや、足まで真っ赤なネキトンボがたくさん飛んでいます。ですが、古墳からちょっと離れるとまるで見られなくなる。絶滅危惧種ではないけれど、人間の生活圏で見かけなくなった珍しいトンボが、古墳の周辺を普通に飛んでいます。様々な鳥の棲家にもなっていて、まさにサンクチュアリ。普通に人が入れない場所だから、独特の生態系があるのだと思います。
ちまたでは「古墳ブーム」が起きていて、古墳がたくさんある奈良だから、当然、古墳巡りをするツアーもあり、中には「古墳に入ろう」という企画が売り出されているそうです。そういう観光もあるのかな、と否定はしませんが、たとえば僕だったら、立ち入り禁止の場所にわざわざ入ってどんな絵が撮れるかなんて、これっぽっちも思わない。
僕としては、古墳は中に入って体感するのではなく、外から見て感じるもの。行燈山古墳を撮った時は、風がピタッと止まって、濠の水面に空が映って水鏡のようになった。瞬間、時間も空気もすべてが閉じ込められたようになってね。五感のセンサーがフルに動いて、古墳の奥の奥まで見通せるような感覚になった。古墳の存在感がさらに増して、畏敬の念が自然に湧いてきた。それが古墳の魅力で、宮内庁が言うように、人が受け継いで守ってきたことの重みでもあると思う。
僕は歴史にはそんなに詳しくはないけれど、古墳について、誰の墓とかいろんな思いを巡らせたりする歴史ファンは楽しいやろな、と思います。古墳の発掘については、考古学的に意味があるとわかるけど、考古学以外の価値も理解して、古墳にアクセスしてもらえないかな、と願っています。古墳から学べることはいっぱいあると思うのですよ。外から眺めているだけでもね。そんなことを映像で感じてもらえたら。(文責:図書情報館)
『古墳の美』撮影地……三輪山(桜井市) / 箸墓古墳(桜井市) / 行燈山古墳(天理市) / 宝来山古墳(奈良市) / ヒシャゲ古墳(奈良市) / 劔池嶋上陵(つるぎのいけのしまのえのみささぎ 橿原市)
■保山耕一(ほざん・こういち)
1963年生まれ。奈良在住。US国際映像祭でドキュメンタリー部門の最優秀賞である「ベスト・オブ・フェスティバル」を受賞。フリーランスのテレビカメラマンとして『THE世界遺産』『情熱大陸』『美の京都遺産』『真珠の小箱』などの番組撮影に携わるほか、スポーツ、音楽、バラエティまで多方面に活躍。2013年に直腸がんと診断され、現在も治療を続けながら「奈良には365の季節がある」という強い思いを映像にすることをライフワークとしている。2018年11月、資料収集などで社会に貢献した人を表彰する第7回水木十五堂賞の受賞が発表された。