奈良県立奈良図書館報

平成9年3月30日


第68号


誌名
うんていは日本の公共図書館のはじめといえる奈良時代の芸亭院(うんていいん)による。

目次

  1. インターネットと図書館サービス・・・・館長 橋戸敏弘
  2. 所蔵資料から・・・・・・・・・・・・・高浜虚子「鶏頭」
  3. 「奈良県立奈良図書館のホームページの開設について」
  4. 平成8年度
    近畿公共図書館協議会整理部門研究集会報告
    ・・・「整理業務の現状と将来展望−機械化ネットワーク環境の中において
  5. シリーズ近代文学と奈良 5・・・・・・堀辰雄・古代びとの心を求めて
  6. レファレンス・あれこれ(12)
  7. 郷土資料室受入県内発行資料目録・・・・1996.8〜96.12


インターネットと図書館サービス

  館長 橋 戸 敏 弘

 公共図書館にとって大事なことは、利用者が目的とする図書資料があるということです。図書館の奉仕活動の中心は、資料を提供することとレファレンスの2つに分かれます。資料の提供は、図書館内で利用する閲覧と、館外への貸出の2つがあります。レファレンスは、参考事務といって、利用者からのさまざまな質問を図書館の資料と機能によって、利用者に援助する事務です。質問には、口頭、電話、手紙などの方法があります。それを基にして、必要な資料を利用者に提供します。資料がない場合には、リクエスト・サービスによって、要求された資料を入手し提供することもあります。
 さて、今日の社会において、生きていくためには、好むと好まざるにかかわらず、あらゆる生活場面において、絶えず思案したり、判断したり、行動することが求められています。激しく変化する社会に適応していくためには、絶えず必要かつ有用な情報を獲得しつづけなくてはなりません。また、利用者自身の情報へのニーズも、社会生活において、仕事において、家庭生活において、さらには、余暇の利用のためにと多岐にわたっています。さまざまな生活場面でのニーズを満足するために正確な情報が必要になってきました。
 県立図書館では、新県立図書館整備基本構想に基づき、本年の2月4日から、インターネットを始めました。インターネットは、21世紀に通用する新しい図書館に向けて、世界中の情報にアクセスできる機能を備えています。もちろん、本図書館もホームページを開設して、世界に向かって情報を発信しています。現段階では、図書館の蔵書の検索(現在、11.7万冊が可能)・生涯学習施設のガイド・奈良県図書館協会の大学・専門図書館部会情報などを発信しています。ちなみに開設後1ケ月間に約18,000のアクセスがありました。利用者のあらゆる情報ニーズに応えるべき図書館として変身しつつあります。

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所蔵資料から

高浜虚子著『鶏頭』(春陽堂発行)1908年
 高浜虚子こと高浜清が「一生の運命を支配したともいふべき一人の人」 正岡子規と知り合ったのは、伊予尋常中学校4年の17歳の時。小説家を志していた彼は、子規の井原西鶴の話に「啓発」され、俳句を作るようになったという。とすれば、虚子の句作りは初め、小説を書くための修業のつもりだったのだろうか。それがいつしか「殆んど俳句専門」になってしまうのだから人生はわからない。
 処女短編集『鶏頭』は、そんな虚子の若き日の夢が形となったものといえる。その初版本が当館にある。保存状態も比較的良い。それは「風流懺法」「斑鳩物語」等の10編から成るがどれも大変短い。序文を書いた夏目淑石も虚子に宛てた手紙に「アナタノ作ヲ讀ムノハヒマガ入ラナカッタ。」と書いているぐらいである。
 虚子は子規の後継指名を辞退してもなお子規文学の継承者であり、写生文の主張もその現れだった。この短編集の作品もどこか写生画を思わせる懐かしさと不思議な余韻を心に残す。それは、その画に古きよき日本の情緒が息づいているためだろうか。
 「斑鳩物語」の舞台、「大黒屋」旅館は今も在るが、当時の建物も、菜の花と梨の花が織りなす風景ももう見られない。世に出て1世紀近く経ったこの本を、試しに開いて顔を近づけてみると、古びた紙の懐かしい香がする。
(藤本佳子)

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