平成8年度
近畿公共図書館協議会
整理部門研究集会報告

『整理業務の現状と将来展望
   −機械化、ネットワーク環境の中において−』



 今年度の研究集会は、平成8年12月6日奈良県文化会館を会場に、114名の参加を得て開催されました。以下に講演・事例発表の概要を参加者の1人として印象深かった点を中心に紹介します。

講演「図書館システムとインターネット」
神戸市外国語大学 芝勝徳先生

 行政全体の情報化・システム化の中で、インターネットを含む大きなネットワークに図書館システムも含めた個別業務システムが飲み込まれようとしている。そこでは大きな枠のインターネットや外部システムと図書館システムとの関係・あり方 が問われている。
 また、コミュニケーションの文化を育むためのコンピュータネットワークが急速に普及しつつあり、その中で図書館はどのように変わっていくのか。従来の図書館ネットワークは行政サービス内の個別業務システムとしてあり、それは閉じたネッ トワークで、目的を限定したシステムであった。ネットワークに対応した分散システムでは、個別業務ごとにコンピュータを分散させて、それをネットワークで結び、全体として図書館システムを運用させるというもので、神戸市図書館情報システムを例にすれば、書誌情報については共用システムで運用し、貸出返却業務などはローカルシステムで分散させて運用している。今後の方向性としては、目的を限定しない、不変的なネットワークを構築し、その上に個別システムとしての図書館システムを乗せるという方法によって、自治体や館種を越えたネットワークに対応していくことになる。
 インターネットに対応した図書館ネットワークのつくり方としては、

①個別につくった図書館システムの一部を開けてインターネットに対応するか、
②もともとインターネット的につくり、その上に図書館システムを乗せてサービスを行う

という2つの方法がある。また、ネットワーク3階層モデルとしては図書館の資料管理や個人情報を扱うシステムとしてのプライベートサービス。館種を越えた目録の共用システムや組織内部での共有を行なうイントラネットサービス。インターネット向けのオパックというかたちで外向けのサービスを行なうインターネットサービスの3階層があり、自治体においてはどこのレベルでやるのかを考える必要がある。また、そこで取り扱われる電子メールは、その普及が拡がれば図書館サービスに応用され、レファレンスや予約など利用者サービスの1つとして定着していくだろう。現に、インターネットの世界では、電子メールによる「目録規則」や「マークフォーマット」などに関する議論が活発になされている。
 ただインターネットにも影の部分があり、プライベートな部分や個人情報の取り扱いについて、ネットワークの公的な運用の際には、ガイドラインをつくり、管理者を置くなどして運用しなければならないし、そのような認識に基づいたシステムづくりをしていかなければならない。
 最後に課題と問題点をあげると、

①図書館員がどれ程ネットワークの拡がりを自覚できるのかということと、

②組織内部の規則と運用の実際をよく考えること

が大切といえる。
 講演のしめくくりとして、システムをつくってネットワークをつくるのではなく、普遍的なネットワークの上に個々のサービスを提供するというやり方を強調したい。

事例発表①

 「神戸市の図書館における整理業務と雑誌」

 神戸市立中央図書館 長谷川文子氏

 震災の影響で半年遅れの平成7年9月に稼働を始めた神戸市図書館情報ネットワークシステムは、神戸市立中央図書館・神戸市外国語大学附属図書館・ファッション美術館図書室の3局を結ぶ館種を越えたネットワークを形成している。そこでは幅広い情報検索二一ズに応えるため、階層性をもつ学術情報センターの書誌データを活用し、UNIXシステムによる分散処理を行なうという新しい試みがなされている。
 これを市立図書館側からみると、従来出版物理単位の書誌データを維持していたが、階層性を持たせるため約40万件のデータを変える必要が出てきた。作業は機械的にデータ変換を行なったが、現在約半分のデータが未変換のままで、仮データをつくって貸出・返却に対応している。目録整理システムでは多言語対応のエディターソフト「mule」を採用している。多機能だが操作は複雑で使いこなせていないところもある。また、美しい書誌を作成して書誌の共有をはかることと、早く資料を提供するための書誌作成とでは両立しないところがあり、館問での相互利用もまだ整備されていないのが現状といえる。
 しかし、基本的な構成は出来上がっているので、間題は山積しているが、1つ1つクリアーし、改良を加えて、利用者により良い資料・情報を提供できるようにしていきたいと思っている。

事例発表②

 「滋賀県立図書館における雑誌管理について」

 滋賀県立図書館 樋崎未希氏

 雑誌管理システムは平成7年5月にシステム更新が行なわれ、操作法が向上し、誌名情報も充実し、誌名変遷にも対応できるようになった。
 雑誌の特集の検索においては、書名検索画面の「雑誌」で行ない、特集のヨミが検索対象になっている。入力対象では特集以外にも滋賀県関係の記事・論文、映画のシナリオ・演劇の脚本、主な文学賞の受賞作品など5項目程を決めて入力し、レファレンスツールとして使えるようにしている。
 『県内雑誌所蔵目録』は平成7年度から作成し、県内の公共図書館に配布している。これは、県立図書館に県内の公共図書館の所蔵状況が館単位で入っているので、それをプリントアウトしたもので、タイトルごとに書誌事項と所蔵状況が表示されている。問題点としては、県立所蔵分のうち1985年以前に休廃刊になったり、受入を中止した雑誌は未入力の状態になっており、所蔵状況も不完全なデータ表示になっている部分もある。また、市町村立の所蔵状況も館によって表示が不統一になっているなどの点があげられる。
 雑誌の保存については、滋賀県資料保存センター事業の一環に位置付けられているが、市町村の図書館から県立へ移管する雑誌や保存体制についてはまとまった方針が出ていず、現在県公共図書館協議会ネットワーク研究委員会において話し合いがもたれている。しかし、保存対象誌の選択基準や、「永年保存」の意味するところなど、各館の立場や現状のちがいも含めて、意見がまとまらない状態になっている。
 今後の課題としては、おたがいの異なる立場・現状を理解し、共通の認識を持って事業をすすめていくことが必要だと思っている。
(鈴木陽生)

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